sandragon965

くじ運なんかいらない!



地区の代表に選ばれる

老後私たち夫婦が選んだライフスタイルは地方移住でした。

退職金を費やして移住者を積極的に受け入れている過疎地のとある村の空き家を手に入れました。

長く住むつもりで都会マンションの暮らしと変わりない内装にリノベーションしました。

夢のような広い庭もあり花はもちろん野菜を植えて収穫して食卓のテーブルで食べると言うまさに理想としていた暮らしが実現しました。

東京ではマンションの同じフロアの人の名前も知らないといレベルで地域とのつながりは希薄でしたが、引っ越してきたその日に自治会長が挨拶に来て仲間入りしました。

初めての自治会の顔合わせで驚きの出来事が起きました。

10年に一度の御柱奉納という伝統行事が来月に迫っていました。

大社の柱を立て替えるために切り倒してきた杉の木の中で一番太いものを抽籤で引き当てることを地区ごとに競うのですが、そのくじを引く役を、その日くじで決めるというのです。

「何かが当たった記憶が人生で皆無なので」と言ってお断りしたのですが「東京から来たんだから」と全く聞き入れてもらえず抽籤に参加すると何と当たりくじを引き立ててしまったのです。



ライバル登場

「本当たまたまです、今まで当たったものと言えばティッシュとボールペンくらですから」と半泣きで訴えても大拍手で一行に聞き入れてもらえず結局引き受けることになりました。

抽籤まで悶々とした日々を送っていたある日、近所の人たちと地元の温泉に行きました。


露天風呂は最高で一瞬悩みが消えた気がしたのですが、さらにどん底に突き落とされることになりました。

隣の地区のライバルが来ていてゾッとさせられました。

この寒いのに手を合わせて水風呂に何度も出たり入ったりしているのです。


「当選のために身を清めていると」目をギラギラさせて話てきました。

ため息ばかりで「自分は本当に運に任せるとしかない」としか思えませんでした。

抽籤会でやはりどん底に

ついに御柱奉納の日が来ました。

振るえる引きましたが結果は思った通りでした。

「やっぱり」と改めて思い知らされました。

温泉で水行に励んでいた男性が結果を出して右手にくじを持ち誇らしげにグルグル回していました。

「自分は立候補したわけでもないし、たまたまあの日くじが当たっただけで何も悪くない」と言い聞かせるのですが涙がこみ上げてきて「すみません、すみません」とひたすら謝り参列していた地区の人たちに一瞬も目を向けることは出来ず、足早にその場を立ち去りました。



運はどこに使うべき?

東京に戻ろうかと思っていた矢先に信じられない噂が飛び込んできました。
当たりを引き当てた男性が水風呂で溺死していたというのです。

来年にむけてもうスタートアップしていたんだなと驚きながら「いけない!」と思いながら胸をなでおろしながらまた「いけない!」と言い聞かせながら「良かった」と涙がこみ上げてきました。

「地区のみなさん、ごめんなさい、ごめんなさい、自分の運は自分のために使わせてもらいます」と心で叫んでいました。

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